アインシュタインの舌

サイエンスは人生を豊かにする

§用語解説 【トリチウム】

§用語解説【トリチウム

 

サイエンスで使われる言葉は一般の人にとっては敷居が高い. 

 

ニュースに出てきても読む気にならないし

ググってみると, 安全と言っている人もいればものすごい怖がるべきだと言う人もいる.

 

どっちやねん!!

 

まあそう焦らずに, そんな時はやはり事実をよく理解し, 自分で判断するしかない. 

 

以下の文章では科学を全く知らない人にもできるだけわかるように簡単に書いたつもりであるが, もし

全然わかんねーよ!

なんてことがあればコメントしてほしい. 

一緒に勉強していきましょう. 

 

トリチウムとはなんぞや

トリチウムというのは一言で言えば, 水素のダチである. 

 

水素という原子は, 一つの陽子の周りに一つの電子が存在するという構造をしている. 

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水素原子:赤い点が陽子, 青い点が電子をあらわす

 

電子はマイナスの電気を帯びていて, 陽子はプラスの電気を帯びているから全体ではプラスマイナスゼロで電気は帯びていないことになる. 

 

当然, 電子とか陽子の数が変わると電気的な性質が変わって別の原子になってしまう. 

 

では電気を帯びていない粒子 -中性子- がくっついたらどうか.  

中性子は電気を帯びていないため, 原子にくっついても電気的な性質は変わらない. 

 

この中性子が普通の水素に比べて2つ多いのが ”トリチウム”である. 

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トリチウムの模式図:黄色い点は中性子をあらわす

 

このように中性子の数だけが違う原子の仲間を同位体とかアイソトープという. 

 

トリチウム放射能

 

トリチウムは水素と比べると中性子の数が違うだけで電気的性質は変わらないよ

とさっき言った. 

 

では普通の水素と全く同じように振る舞うかというと, それは甘い

生クリームの何倍も甘い

 

実はこのトリチウムの中にある中性子は時々ぶっこわれるのである. 

 

中性子が陽子に比べて多くなってしまうと, その中性子が壊れて

電子, 陽子, ニュートリノ の3つに分かれてしまうことが知られている.

 

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β崩壊:緑色の点は反ニュートリノをあらわす

この中性子がぶっこわれる現象をβ崩壊

飛び出したきた電子をβ線という. 

結果として, トリチウムからはこのβ線が放出されることがわかっている. 

このβ線がいわゆる放射線の一種で, トリチウムが怖がられる原因になっている. 

 

トリチウムβ線のエネルギー

 

ではこのトリチウムから出る放射線はどれくらいのエネルギーを持つのだろうか. 

 

結論から言うと18.6keVである. ※1

 

...わかんねーよ!!!

 

と読者から怒号を浴びせられる前にこれがどれくらいか言っておくと

 

食用のラップで防げる※1

人間の体内を0.01mmしか進めない

 

くらいのエネルギーである. 

 

少し細かく見てみる. 線量係数と言うものを見てみる.

 

線量係数(nSv/Bq)= 実効線量(nSv)/ 放射能(Bq)

 

線量係数は上の式で定義されていて, 簡単に説明すると

 

”物質の放射能に対してどれくらい健康被害があるか”

 

と言う量である. 

 

トリチウムの線量係数は0.000000018 (nSv/Bq) ※1

よく話題になるセシウム1341/1000である. 

 

 

トリチウムの応用

 

このトリチウム, 実は今までも多くの水爆実験に応用されてきた. 

水爆には一般に, 二重水素同士による核融合反応(D-D反応)を用いるが, トリチウムを用いた核融合反応(T-D反応)の方が温度や圧力が低くてもいいことが知られており, D-D反応の起爆反応として使われることもある. 

 

また, 原子炉内では常に多くのトリチウムが生成されている. 

燃料であるウランが核分裂により, 3つに分かれる(三体核分裂). 

これが主なトリチウムの発生源である. 

 

 

トリチウム水の海洋放出

今回この記事を書くきっかけになったのがこのニュースである. 

 

www.tokyo-np.co.jp

 

さてこの手のニュースは度々世間を騒がすが, 論点は二つ

  • 安全か
  • 漁業は本当に打撃を受けるか

である. まず安全かについてだが, ここまで記事を読んでくれた読者ならば

健康被害はない

と言い切れそうである. 筆者もそう思う. 

そもそもトリチウム健康被害(線量係数)は大きくないことは明らかな上に, 

トリチウムは化学的性質が普通の水と変わらないため, 尿と一緒に排出されると思って問題なさそうである. 

 

では漁業に影響は出るのだろうか. 

 

はっきり言って, 海の汚染による魚介類の死滅や, それを口にした人間への影響はないと言えるだろう. 

 

しかし一方で, マスメディアが

”政府が放射性物質を海に垂れ流す”

と伝わりかねない報道をすれば, 無知な人は当然ここの海から取れたものを毛嫌いするだろう. 

したがって, 正しく言えば

 

健康被害はないが報道の誤解釈による産業的悪影響はある

 

と言うことが言える. 

 

これ以上ここで話を続けると倫理的に難しい話になってしまうので. 

今回はこの辺で終わりにするつもりだが, 間違いなく言えることは.

 

サイエンスにとどまらず全てのことにおいて

 "知らないこと"

が最も恐るべきことだということである. 

 

自分が正しいと思っていることが根本から間違っていることもある. 

知らなければ, 自分が騙されていることにも気づけない. 

そんな風にはなってほしくない. 

 

今後このブログの記事が少しでも読者の知に寄り添い

サイエンスが人の人生を少しだけ豊かにすることを願い

本稿を終える.