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サイエンスは人生を豊かにする

ラグランジアンの正体

古典ラグランジアンの意味は一見不可解である。しかしこのラグランジアンにも定性的な意味を見出すことができる。以下ではラグランジアンとその時間積分である作用の物理的な意味を解説し、最小作用の原理運動方程式と同等であることを定性的に理解する。

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ラグランジアンの正体

僕は学部生の頃, 解析力学を学んでひどく感動した.

これほどまでに美しく力学の世界を記述できるのかと.

 

それと同時にラグランジアンという物理量に魅せられた.

これほどまでに重要なのに, これほどまでに意味のわからない物理量は他にない.

 

当時私は, この物理量の定性的意味を必ずとらえてやると志し, 当時もがき苦しんでどの教科書にの載っていない結論に至った. 

 

その結論はあまりにも良くできたもので, そこに行き着いた時ある種のエクスタシーをも感じた. 

 

その記憶を元にここに備忘録として残しておくことにする. 

 もし重大な間違いを見つけたらぜひ教えて欲しい. 

 

最小作用の原理ラグランジュ運動方程式

まず最初に解析力学の復習をしよう. 

 

ラグランジアンの定義はどうだったかというと, 

           \mathcal{L} (q,\dot{q})=T-V

 であった. 

 

右辺のTは運動エネルギー, Vはポテンシャルである. 

 

やはり見れば見るほど, この関数にどんな意味があるのかと思う. 

もし右辺のマイナスをプラスに変えれば, 我々がよく目にする力学的エネルギーに相当する量になる. 

          E=T+V

(ただしエネルギーはその値のことを指すが, ラグランジアンは関数である)

 しかしその差を取ってラグランジアンにしてしまったら, はっきり言って全然意味不明である. 

運動エネルギーとポテンシャルの差を取って一体何になるというのか

 

それだけではない. このラグランジアンを時間で積分したものを作用というのだが, 

          S=\int^{t_f} _{t_i} \mathcal{L} (q,\dot{q}) dt

これの変分が0であるという等式が運動方程式と等価であるというのだ. 

          \delta S=\delta \int^{t_f} _{t_i} \mathcal{L} (q,\dot{q}) dt =0

          \iff \frac{d}{dt}(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{q}})=\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial{q}}

これを最小作用の原理という. 

確かにこれは数学的に証明すれば正しく成立する. 

 

しかしなぜ運動エネルギーとポテンシャルの差が運動方程式を導くような重要な関数になり得るのか...

 

バイトと仕送り

 ここで例え話をしよう. 

 

ある大学生は親からの仕送りとバイト代で生計をたてている. 

 

今月は  

 仕送り¥25000   バイト¥45000   合計¥70000

先月は  

 仕送り¥30000   バイト¥35000   合計¥65000

先々月は 

 仕送り¥40000   バイト¥30000   合計¥70000

 

であった. 

 

今月と先々月の合計はどっちも同じ¥70000である. 

 

では仕送りとバイト代の差を取ってみよう. 

今月は  25000-45000= -20000

先々月は 40000-30000= 10000

 

これを見ると合計額が同じ場合でも差をとれば違いが見えてくる

つまりこの差を取った値を見れば, いわば親への依存度がわかる. 

値が大きい時は仕送りの割合が多いことのなるので親に依存していることになり, 

逆に値が小さい時はバイトの割合が大きいことになるので親にあまり依存していないことになる. 

 

合計が同じ時は差を取った方が得られる情報が多いようだ...

 

ラグランジアンと作用の物理的意味

さっきの例え話をエネルギーにあてはめてみよう.

 

誰もが知っている通り, 全力学的エネルギーは保存するので常に一定の値をとる.

   E=T+V=const.

つまりこのエネルギーの値だけを見ても, 運動の様子は全くわからない. 

 

やはり運動エネルギーとポテンシャルの差を取ったラグランジアンの方が得られる情報は多そうである. 

           \mathcal{L} (q,\dot{q})=T-V

 この式が言っていることはつまり

全体のエネルギーがどれだけ運動エネルギーに偏っているか

ということではないだろうか. 

 

つまり, ラグランジアンが正の時は運動エネルギーに偏っており, 

負の時はポテンシャルの方に偏っている.  

そしてその絶対値は偏りの強さを表す. 

 

ではこの偏り具合の関数がどうして運動方程式を導くのだろうか. 

 ここで作用

    S=\int^{t_f} _{t_i} \mathcal{L} (q,\dot{q}) dt

の物理的意味を考えよう. 

 

これは時間発展するラグランジアンを時間で積分したものである. 

つまり以下の図の水色の部分の面積である. 

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ラグランジアンがエネルギーの偏り具合だったことを思い出すと

この作用の物理的意味

t_i から t_f に至るまで全体のエネルギーの偏り具合

に相当する. 

 

さて, 最小作用の原理を思い出すと

          \delta S=\delta \int^{t_f} _{t_i} \mathcal{L} (q,\dot{q}) dt =0

          \iff \frac{d}{dt}(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{q}})=\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial{q}}

 

この作用の変分が最小になるような場合の q,\dot{q} の時間発展が解であるということである. 

 

変分が最小の時, 作用 S は最小値をとると解釈して差し支えない. 

つまり, あらゆる取りうるpath(q=q(t))のなかで作用を最小にするようなpathが解であると言っている

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ここで作用の物理的意味を思い出すと, ある時間全体のエネルギーの偏り具合だった. 

作用は小さいほどポテンシャルに偏っていることを表すのだった.

したがって 驚くべきことに, 次のような結論をえる. 

 

全ての物体は

ある時間全体の内エネルギーの割合ができるだけポテンシャルに偏るように運動する

 

 


 

これは何を意味するのか. 

自由落下場合で考えてみよう. 自由落下する物体のラグランジアン

          \mathcal{L}=\frac{1}{2} m{\dot{q}}^2 - mgq 

 であるが, 自由落下する間一定の重力を受けていることから等加速度運動をしながら落下していく. 

 

つまりポテンシャルの大きい間(落下してすぐ)はゆっくり進む.

この加速運動が, 落ちるまでの間ポテンシャルができるだけ多くなるようにオンどうするということそのものである.  

 

先に述べたある時間全体の内エネルギーの割合ができるだけポテンシャルに偏るように運動するという性質は

運動方程式力が加わっている時(ポテンシャルを持っている時)に加速するという性質を如実に表している. 

ラグランジアンの定性的解釈から大雑把ではあるが, 運動の性質をも毎に説明することができた。

 

ここまで読めばもう読者の皆さんはラグランジアン恐怖症から解放されたであろう. 

 

このように一見意味不明な物理量でさえも定性的解釈を試みると本当に自然界の仕組みをわかったような気分にになれる. 

 

だから物理学はやめられない. 

 

Remarks

今回の記事な中では, ラグランジアンが特定の値を持つような (c数) のような扱いをしてしまったが

実際は q,\dot{q} の関数である. 

今回はラグランジアンの定性的性質を見るためにあえてこのように考えたが, 実際に定量的に扱う時には注意が必要である.  

 

また, 今回の議論では ”可能な取りうる範囲でポテンシャルの割合が大きくなるように" というような表現をしたが, 常に \mathcal{L}=min. となるような q=q(t) が存在するわけではない. 

そのような事情を定量的に含めて議論したのが一般的な教科書等に載っている運動方程式の導出法やラグランジュの未定乗数法である. 

このようなことを意識しながら解析力学の勉強を進めていって欲しい.  

 

また量子力学におけるラグランジアンまで拡張するとこの大雑把な解釈ではそううまくは行かないかもしれない. 

その点については, わかり次第記事にしようと思う. 

 

変な数式 | 数式に混ざる不思議な記号たち

自然科学者たちがすらすらと書く数式の中には一見数式には見えない不思議な記号がたくさん存在する。ここでは主に物理学の中で出てくる変わった数式を紹介する。あまりにも有名なインテグラルから最後は実際に論文で使われた平仮名まで見ていくことにする。

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変な数式  

 

数式といえば, 当然アルファベットと数字からなるものを思い浮かべるだろう. 

 

しかし自然科学の研究者が使う数式の中には, 一見数式とは思えない代物もある. 

 

今回は著者が専門としている物理学の中から普通の数式とは一味違う ”変な数式” を紹介しよう.  

 

 

1. アルファベットもどき(ギリシャ文字

 

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自然科学者がアルファベットに飽きた時に真っ先に使うのがギリシャ文字である.  

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この中にはアルファやベータなど見慣れたものもあるかもしれない. 

しかし, 自然科学を勉強する学生にはこれに悩まされることも意外と多い. 

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例えばこの ξ(グザイ). 

 

これは物理学を勉強しているとよく出てくるが, 頻出度の割に書きずらい!

 

筆者が受けたある講義では, ギリシャ文字が書けないことを理由に物理学自体に苦手意識が芽生えないようにと, ギリシャ文字の書き方から指導が始まることがあった. 

 

だが大抵の場合, 研究者はなぜかこの手のギリシャ文字を書くのが達人級にうまい

 

2. ニョロニョロ(インテグラル)

 

これも誰もが見たことがあるであろうインテグラである.  

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 この記法を初めて使ったのはフーリエだとされており, 

ラテン語の”和”「Summa」の頭文字 を縦に伸ばして書いたものだとされている. 

 

この記号は高校で習うわけだが

 大学以降の教科書を眺めてみるとこれにも意外とバリエーションがある. 

                f:id:hatanakai:20180908225559p:plain     f:id:hatanakai:20180908225748p:plain 

まず左の丸がついたインテグラルであるが

 

これは線積分や面積分などの

積分範囲が2次元以上に広がる時に, その積分範囲が ”閉じていること”を表す. 

 

例えば輪っかのような”閉じた”線(閉曲線)や, カプセルのような”閉じた”面(閉曲面)

である. 

 

右側のインテグラルが複数本並んでいるやつは積分と呼ばれており

積分変数が2つ以上ある時に用いられる. 

 

かつて字が汚かった友人がこれをノートに書いた時, 

それを見た別の友人が, ノートの上にチ◯ゲが落ちていると勘違いして手で払い落とそうとしたことがあった. 

 

それ以来筆者の描くインテグラルは心底丁寧になった. 

 

3. 三角・四角

 

さて, 積分があれば微分もある. 

 

Microsoftが開発したAI女子高生"りんな"に微積分の話をすると

微分積分、いい気分♪”と元気そうな返事がくる

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りんなに微分積分と話しかけてしまう筆者の精神状態にはいささか心配になるが

そんなことはどうでもいい. 

実は皆さんが高校で習う微分は 全て1変数に対する微分である. 

 

しかし, 我々が住んでいるこの空間は ”縦” ”横” ”高さ”のある3次元空間である.

 

そうなると少なくとも3次元丸ごと扱える微分記号が必要になる.

そんな時現れるのがこの”逆三角形”である.

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呼び名は”ナブラ”とか”デル” , と呼ばれる. 

 

この記号を使うと, 場の3次元的な傾き(gradient)湧き出し(divergence), 回転(rotation)などをうまく記述することができる. 

 

さらにこの2回微分バージョンがこの”正三角形” 「ラプラシアン」である.

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 このラプラシアンを使った次の方程式をラプラス方程式と呼んだりもする.

 

さらに”三角形”が出てくれば”四角形”もしっかり出てくる.

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これは「ダランベルシアン」といって, さっきのラプラシアンをただの三次元空間(ユーグリット空間)から4次元時空(ミンコフスキー空間)まで拡張したものである. 

 

これを使うと波動方程式という重要な方程式が次のようにいとも簡単にかける. 

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4. ”かっ”&”っこ”

 今度はこの数式を見て欲しい

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 この数式の中に出てくるこの三角カッコを見て欲しい

これには反対向きのものもあって, 二つを合わせて

こんな風に使うこともある.

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これはもはや括弧そのものであるが, そのネーミングが面白い.

 

〈 〉のような硬いかっこのことを英語でブラケット( bracket )というのだが,

 

このアルファベットの羅列が「bra」と「ket」が「c」を

囲っているように見えることから

 

左向きのこの記号を『ブラ』とか『ブラベクトル』   

       f:id:hatanakai:20180914170854p:plain

右向きのこの記号を『ケット』とか『ケットベクトル』と呼ぶ

      f:id:hatanakai:20180914170839p:plain

 

この記号と呼び名を発明した人物は

イギリスの物理学者ポール・ディラック(Paul Adrien Maurice Dirac) 

であるが, もしディラックが日本人であればこの記号の名前は

 

かっ”と”っこ

 

だったかもしれない. 

 

5. 天才の落書き

 

次に紹介するのがこの数式である. 

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もはや幼稚園児のお絵かきのようだが, これはれっきとした数式で

開発者のファインマンの名前をとってファインマンダイアグラム

と呼ばれている. 

 

これは場の量子論における摂動展開の各項を図示したものだが, 

実際は図形を使わずに数式らしい数式で書くこともできる. 

それがこれである. 

 

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この面倒な数式を見ればファインマンダイアグラムの偉大さはいうまでもないだろう. 

 

5. ひらがな・漢字・ハートマーク

 

いろいろな記号を見てきたが, 

とうとうひらがなを使う研究者が現れた. 

百聞は一見にしかずである. これをみよ. 

 

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これは本物の学術論文の一部であるが, 

見事なまでにひらがなの『』が使われている. 

実際の論文をここから見ることができる. 

 

それだけではない. 

こちらは漢字が使われている. 

 

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だ...

この論文, 同じような専門分野の研究者の間ではよく読まれる有名な論文らしい. 

実際の論文はここから見れる. 

 

なんとも我々にとっては, 浮いているように見えるが

日本人以外にはカッコよく見えているのだろうか. 

 

さあ, 最後はおちゃめなハートマーク

 

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実際の論文はこちら

きっとこの著者は, 論文執筆の前日に街行く誰かに一目惚れをしたに違いない. 

 

Reference

 

§用語解説 【トリチウム】

§用語解説【トリチウム

 

サイエンスで使われる言葉は一般の人にとっては敷居が高い. 

 

ニュースに出てきても読む気にならないし

ググってみると, 安全と言っている人もいればものすごい怖がるべきだと言う人もいる.

 

どっちやねん!!

 

まあそう焦らずに, そんな時はやはり事実をよく理解し, 自分で判断するしかない. 

 

以下の文章では科学を全く知らない人にもできるだけわかるように簡単に書いたつもりであるが, もし

全然わかんねーよ!

なんてことがあればコメントしてほしい. 

一緒に勉強していきましょう. 

 

トリチウムとはなんぞや

トリチウムというのは一言で言えば, 水素のダチである. 

 

水素という原子は, 一つの陽子の周りに一つの電子が存在するという構造をしている. 

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水素原子:赤い点が陽子, 青い点が電子をあらわす

 

電子はマイナスの電気を帯びていて, 陽子はプラスの電気を帯びているから全体ではプラスマイナスゼロで電気は帯びていないことになる. 

 

当然, 電子とか陽子の数が変わると電気的な性質が変わって別の原子になってしまう. 

 

では電気を帯びていない粒子 -中性子- がくっついたらどうか.  

中性子は電気を帯びていないため, 原子にくっついても電気的な性質は変わらない. 

 

この中性子が普通の水素に比べて2つ多いのが ”トリチウム”である. 

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トリチウムの模式図:黄色い点は中性子をあらわす

 

このように中性子の数だけが違う原子の仲間を同位体とかアイソトープという. 

 

トリチウム放射能

 

トリチウムは水素と比べると中性子の数が違うだけで電気的性質は変わらないよ

とさっき言った. 

 

では普通の水素と全く同じように振る舞うかというと, それは甘い

生クリームの何倍も甘い

 

実はこのトリチウムの中にある中性子は時々ぶっこわれるのである. 

 

中性子が陽子に比べて多くなってしまうと, その中性子が壊れて

電子, 陽子, ニュートリノ の3つに分かれてしまうことが知られている.

 

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β崩壊:緑色の点は反ニュートリノをあらわす

この中性子がぶっこわれる現象をβ崩壊

飛び出したきた電子をβ線という. 

結果として, トリチウムからはこのβ線が放出されることがわかっている. 

このβ線がいわゆる放射線の一種で, トリチウムが怖がられる原因になっている. 

 

トリチウムβ線のエネルギー

 

ではこのトリチウムから出る放射線はどれくらいのエネルギーを持つのだろうか. 

 

結論から言うと18.6keVである. ※1

 

...わかんねーよ!!!

 

と読者から怒号を浴びせられる前にこれがどれくらいか言っておくと

 

食用のラップで防げる※1

人間の体内を0.01mmしか進めない

 

くらいのエネルギーである. 

 

少し細かく見てみる. 線量係数と言うものを見てみる.

 

線量係数(nSv/Bq)= 実効線量(nSv)/ 放射能(Bq)

 

線量係数は上の式で定義されていて, 簡単に説明すると

 

”物質の放射能に対してどれくらい健康被害があるか”

 

と言う量である. 

 

トリチウムの線量係数は0.000000018 (nSv/Bq) ※1

よく話題になるセシウム1341/1000である. 

 

 

トリチウムの応用

 

このトリチウム, 実は今までも多くの水爆実験に応用されてきた. 

水爆には一般に, 二重水素同士による核融合反応(D-D反応)を用いるが, トリチウムを用いた核融合反応(T-D反応)の方が温度や圧力が低くてもいいことが知られており, D-D反応の起爆反応として使われることもある. 

 

また, 原子炉内では常に多くのトリチウムが生成されている. 

燃料であるウランが核分裂により, 3つに分かれる(三体核分裂). 

これが主なトリチウムの発生源である. 

 

 

トリチウム水の海洋放出

今回この記事を書くきっかけになったのがこのニュースである. 

 

www.tokyo-np.co.jp

 

さてこの手のニュースは度々世間を騒がすが, 論点は二つ

  • 安全か
  • 漁業は本当に打撃を受けるか

である. まず安全かについてだが, ここまで記事を読んでくれた読者ならば

健康被害はない

と言い切れそうである. 筆者もそう思う. 

そもそもトリチウム健康被害(線量係数)は大きくないことは明らかな上に, 

トリチウムは化学的性質が普通の水と変わらないため, 尿と一緒に排出されると思って問題なさそうである. 

 

では漁業に影響は出るのだろうか. 

 

はっきり言って, 海の汚染による魚介類の死滅や, それを口にした人間への影響はないと言えるだろう. 

 

しかし一方で, マスメディアが

”政府が放射性物質を海に垂れ流す”

と伝わりかねない報道をすれば, 無知な人は当然ここの海から取れたものを毛嫌いするだろう. 

したがって, 正しく言えば

 

健康被害はないが報道の誤解釈による産業的悪影響はある

 

と言うことが言える. 

 

これ以上ここで話を続けると倫理的に難しい話になってしまうので. 

今回はこの辺で終わりにするつもりだが, 間違いなく言えることは.

 

サイエンスにとどまらず全てのことにおいて

 "知らないこと"

が最も恐るべきことだということである. 

 

自分が正しいと思っていることが根本から間違っていることもある. 

知らなければ, 自分が騙されていることにも気づけない. 

そんな風にはなってほしくない. 

 

今後このブログの記事が少しでも読者の知に寄り添い

サイエンスが人の人生を少しだけ豊かにすることを願い

本稿を終える.